シャント抵抗器は電流センサの心臓部?その仕組みと最適な選び方
私たちの身の回りにあるスマートフォン、家電製品、自動車、そして産業用ロボットまで、多くの電子機器が正常に動作するためには、流れる電流を正確に把握し制御することが不可欠です。
この重要な役割を担うのが「電流センサ」です。
電流センサとは、文字通り電流を検出・測定するための装置やシステムの総称であり、その検出原理は多岐にわたります。
数ある方式の中で、「シャント抵抗器」という電子部品を使い、電流を電圧に変換して測定する「抵抗検出型の電流センサ」は、古くから利用されながらも、今なお多くの場面でその高精度と信頼性から活躍しています。
では、このシャント抵抗器は、抵抗検出型電流センサにおいて、まさに「心臓部」と言えるほど重要な存在なのでしょうか?
本コラムでは、シャント抵抗器が電流センサ、特に抵抗検出型においてどのような役割を担っているのか、その基本的な仕組みからメリット・デメリット、さらには最適なシャント抵抗器を選ぶためのポイントまでを詳しく解説します。
この記事を読んで、シャント抵抗器と電流センサの関係性を理解し、適切な部品選定に役立てていただけますと幸いです。
電流センサにはどんな種類があるの?
電流センサは、検出原理によっていくつかの種類に大別されます。「電流センサ」という言葉は、電流を何らかの形で検知し、それを扱える信号に変換する機能を持つモジュールやIC、あるいはそれらを含む回路システム全体を指します。 その中で使われるコアとなる技術や部品によって、以下のように分類されます。
シャント抵抗方式電流センサ:
電流の流れる経路にシャント抵抗器と呼ばれる抵抗値の低い受動部品を挿入し、その両端に生じる電圧降下を測定することで電流値を算出する方式です。シャント抵抗器そのものは単なる抵抗部品ですが、これを電圧計や増幅回路と組み合わせることで「電流センサ」としての機能が実現されます。オームの法則 (V=IR) に基づくシンプルな原理で、直流から交流まで幅広い電流を高精度に検出できます。
磁気センサ方式電流センサ:
電流が流れる際に発生する磁界を磁気センサ(ホール素子や磁気抵抗素子など)で検出し、電流値に変換する方式です。電流経路を分断せずに非接触で測定できるメリットがあります。この方式はさらに、磁気コアの有無によって分類されます。
・コアタイプ:
磁気コアを使用して磁束を集め、効率よく磁界を検出します。比較的小さな電流から大きな電流まで対応できますが、コアの磁気飽和やヒステリシスが測定精度に影響を与えることがあります。また、構造上、サイズが大きくなりがちでコストも比較的高めです。
・コアレスタイプ:
磁気コアを使用せず、導体周辺の磁界を直接ホール素子などで検出します。小型化・薄型化が可能で、周波数特性にも優れていますが、外部磁界の影響を受けやすい、検出感度がコアタイプに比べて低いといった側面もあります。近年の電流センサICでは、この方式が多く採用されています。
この他にも、光ファイバーを利用した光電流センサ(ファラデー効果を利用)など、特定の用途に特化したセンサも存在します。
シャント抵抗検出型電流センサの詳細
数ある電流センサの中でも、シャント抵抗器を用いた方式は、その高精度とコストパフォーマンスから、多くのアプリケーションで採用されています。
この抵抗検出型電流センサにおいて、シャント抵抗器は電流値を電圧信号に変換する最初の、そして最も基本的な役割を担う、まさにセンサ機能の核心部品であり、その品質が電流センサ全体の精度を大きく左右する極めて重要なコンポーネントです。
ここでは、その仕組みとメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
シャント抵抗検出型電流センサの仕組み
シャント抵抗検出型電流センサの原理は非常にシンプルで、オームの法則に基づいています。
- 測定したい電流 I が流れる回路に、抵抗値 R が既知であるシャント抵抗器を直列に接続します。
- シャント抵抗器に電流 I が流れると、その両端には V=I×R で表される電圧降下 V が発生します。
- この電圧降下 V を差動アンプなどで増幅し、アナログ信号として出力したり、ADC(アナログ・デジタル変換器)でデジタル値に変換したりすることで、電流値 I を求めます。
つまり、シャント抵抗器で発生する微小な電圧を正確に測定することが、電流検出の鍵となります。
詳しくはこちら
シャント抵抗型電流センサのメリット
シャント抵抗方式の電流センサには、以下のような優れた利点があります。
高精度:
抵抗値の精度が高く、温度特性の良いシャント抵抗器を選定することで、非常に高精度な電流測定が可能です。特に微小電流の検出に適しています。
広帯域:
直流(DC)電流から高周波の交流(AC)電流まで、幅広い周波数帯域の電流を測定できます。
低コスト:
シャント抵抗器自体は比較的安価であり、回路構成もシンプルにできるため、システム全体のコストを抑えやすい傾向にあります。(ただし、高精度な測定や絶縁が必要な場合は、周辺回路のコストが上昇することもあります。)
外部磁界の影響を受けにくい:
磁気を利用しないため、周囲の磁界ノイズの影響を受けにくいという特長があります。
シャント抵抗型電流センサのデメリット
一方で、シャント抵抗方式にはいくつかの留意すべき点も存在します。
電力損失と発熱:
シャント抵抗器自体が電力を消費し (P=I2R)、熱として放出します。特に大きな電流を測定する場合、この電力損失と発熱が無視できなくなり、エネルギー効率の低下や、抵抗値の温度変化による測定誤差、さらには周辺部品への熱的影響も考慮する必要があります。
熱設計の必要性:
大電流アプリケーションでは、シャント抵抗器の放熱対策が重要になります。適切な放熱設計を行わないと、抵抗器の焼損や測定精度の悪化につながる可能性があります。
高電圧側の絶縁:
電流経路に直接抵抗器を挿入するため、高電圧回路の電流を測定する場合、測定回路(アンプやマイコン)を保護するための絶縁が必要になることがあります。この場合、絶縁アンプや絶縁ADCといった部品が追加で必要となり、回路が複雑化したり、部品点数が増加したりする可能性があります。
測定対象との電気的接続が必須:
非接触で測定できる磁気センサ方式とは異なり、必ず電流ラインに割り込ませて接続する必要があります。
電流センサ:シャント抵抗器の最適な選び方
シャント抵抗検出型電流センサの性能、すなわちその「心臓部」がいかに正確に鼓動できるかは、使用するシャント抵抗器の品質に大きく左右されます。最適なシャント抵抗器を選ぶためには、以下のポイントを考慮することが重要です。
抵抗値:
測定したい電流の範囲と、後段の増幅回路やADCの入力電圧範囲を考慮して決定します。抵抗値が高いほど、同じ電流でも大きな電圧降下が得られるため、SN比(信号対雑音比)が向上し、微小電流の検出が容易になります。しかし、抵抗値が高いと電力損失 (P=I2R) も増大し、発熱も大きくなります。逆に抵抗値が低いと、電力損失は抑えられますが、電圧降下が小さくなるため、ノイズの影響を受けやすくなったり、高精度な増幅回路が必要になったりします。
定格電力:
測定する最大電流時にシャント抵抗器で消費される電力よりも十分に大きな定格電力を持つ製品を選定する必要があります。定格電力を超えて使用すると、抵抗器の焼損や特性劣化、寿命の低下につながります。一般的には、予想される最大消費電力の2~3倍程度のマージンを見込むことが推奨されます。
抵抗値許容差(精度):
シャント抵抗器の抵抗値のばらつきは、そのまま電流測定の誤差に直結します。アプリケーションに求められる測定精度に応じて、適切な許容差(例:±1%、±0.5%、±0.1%など)の製品を選びましょう。高精度な測定が求められる場合は、より許容差の小さい抵抗器が必要です。
抵抗温度係数(TCR):
抵抗値は温度によって変化します。抵抗温度係数(TCR)は、温度変化1℃あたりの抵抗値の変化率を示す指標で、この値が小さいほど温度変化に対する抵抗値の変動が少なく、安定した測定が可能になります。特に、自己発熱が大きい大電流用途や、動作環境の温度変化が大きい場合には、TCRの低いシャント抵抗器を選ぶことが極めて重要です。マンガニンやコンスタンタンといった合金は、TCRが低いことで知られています。
長期安定性:
長期間にわたって抵抗値が変化しにくいことも、信頼性の高い測定には不可欠です。使用される抵抗材料や構造によって長期安定性は異なります。
形状とサイズ、端子構造:
実装方法(表面実装、リードタイプ、バスバー取り付けなど)や許容電流値、放熱性を考慮して適切な形状やサイズの製品を選びます。大電流用途では、接触抵抗や配線抵抗の影響を低減するために、4端子構造(ケルビン接続)のシャント抵抗器が用いられることもあります。
まとめ
本記事では、電流センサの中でも特にシャント抵抗器を用いた方式に焦点を当て、その仕組み、メリット・デメリット、そして最適なシャント抵抗器を選ぶためのポイントについて解説しました。
電流センサは電流を測定する装置全体を指しますが、抵抗検出型電流センサにおいては、シャント抵抗器こそが電流情報を電圧情報へと変換する最初の関門であり、その精度や安定性がセンサ全体の性能を決定づける、まさに「心臓部」と言える部品です。
そのシンプルな原理と高い精度から、今でも多くの電子機器において電流を正確に測定するために活躍しています。
しかし、その性能を最大限に引き出すためには、測定する電流の大きさ、求められる精度、使用環境などを総合的に考慮し、最適な抵抗値、定格電力、TCRといった特性を持つシャント抵抗器を選定することが不可欠です。
私たちシャント抵抗器.comでは、お客様の多種多様なニーズにお応えできるよう、幅広いラインナップの製品を取り揃え、専門知識を持ったスタッフが最適な部品選定のお手伝いをさせていただきます。
シャント抵抗器に関するご相談やお見積もりは、どうぞお気軽にお問い合わせください。
取り扱いシャント抵抗器はこちら